開発中のプロトタイプ Part 3 [プロトタイプ開発経過]
中断状態のプロトタイプ、データ上の熟成作業、その3回目。
今回はリヤカウル、エンジンまわりのレイアウトなどについて。
ルーフ上のエアインテークはリクエストのひとつ。基本的には自然吸気エンジンを想定しているので
これはあったほうが良いと自分でも思っている。
2分割のリヤウインドー越しにエンジンが見えるようにしたいと思うのだが、超ロングホイールベース
(3Mを超える)でエンジンもギヤボックスも縦置き、デフはギヤボックス後端というレイアウトのため、
エンジンの位置がリヤウインドーに対して相対的に前方になるので期待するほど見えないかもしれない。
そして、ルーフ上のエアインテークから続くインテークダクトもあるので、せっかく沢山並んでいる
エアファンネルも見えなくなる。これが見えなくなるのは市販車の場合はエアクリーナーボックスや
サージタンクなどがあるので普通のことなのだが…、ちょっと考えて、これを見えるようにするためだけに
ポリカーボネートでダクトを成型するというのもひとつの手ではあるよな…などと思ってみるのだが、
まるっきり見た目だけで技術的なメリットは全く無い。こういう部分は(コストを無視すれば)ドライ
カーボン製が一番良いに決まっている。
それでもやっぱり、昔のレーシングエンジンなどNA多気筒エンジンのずらりと並んだエアファンネルを
見るととても惹かれる。この魅力的な造作を何とか見えるように出来ないものか…そう思ってしまう。
リヤフェンダー上面には可動式のエアアウトレットを考えてみた。ドラッグを増やさずにホイールハウス
内にたまって正圧になったエアを吸い出し、うまくすれば結構なダウンフォースを得られるらしい。
このことは以前、フェラーリのF12 tdf(ツールドフランス)が発表された時、当ブログで、過去の自社の
車のディティールをモチーフにしたデザインというのはわかるが、こんなところにエアアウトレットを
設置していったい何が抜けていくというんだろう?みたいな批判的なことを書いたことがあるのだが、
ある方からのコメントで、これは近年のポルシェ911のレーシングバージョン的なものでも採用され、
それが想像以上に効いて車高が下がり過ぎてタイヤとフェンダーが干渉して困って対策を施したそうですよ、
と教えていただき、驚きとともに認識を改め、ブログでもお詫びと訂正を追記したおぼえがある。
その時のフェラーリF12tdfやポルシェよりも、この車のリヤフェンダーは更に負圧の出そうな形状をして
いる(ふっくらと滑らかに盛り上がっていて、いわゆる翼断面の上側に似ている)ので、相応な効果を
期待していいと思う。
基本的に重量物はすべてホイールベース内に置くように考え、ラジエーター、エキゾースト系のサイレンサー
(メインとサブ、どちらも十分な大きさ、容量のもの)、キャタライザー、そしてバッテリー(これもやはり
十分な大きさの規格品)、給油口、そしてリヤウイングのマウントや可変機構を搭載するスペースなどを考え、
それらを全てレイアウトして、余ったスペースを小分けにしたラゲッジスペースとして使えるように考え、
総合的にもっと合理的にならないかな…と何度も何度もレイアウトを変えて検討する。
そして仮に決まったレイアウトで、それに沿ったパネル分割、シーリング、開口部の開閉機構などを考える。
で、それらがうまく成り立てば良いが、そうでない場合、パネル分割や機構が成り立たなくては文字通りの
“絵に描いたもち”であり、それではしょうがないので、影響するところ全てをやり直す。その繰り返し…。
こういうとき、この車のきわめて長いホイールベースは比較的やりやすくて助かる。普通はいろんなものが
何かしら犠牲になって、あちらを立てればこちらが立たず…となりがちで、優先順位に従って妥協しながら
決めていくのだが、その検討作業は中々ストレスのたまる作業となる。この車はそういうストレスが少なめ
といえるかもしれない。
きっとまだ色々変わる、プロジェクトの継続か否かも含めて…。
開発中のプロトタイプ Part 2 [プロトタイプ開発経過]
中断状態のプロトタイプ、データ上の熟成作業の続き。
今回はリヤまわりについて。
リヤコンビランプはヘッドライト同様、かなり気をつかって形状を決めているところのひとつなのだが、
これについてはまた別の機会に触れようと思う。
リヤコンビライトの下にはエアアウトレット。ここからエンジンルームのあたたまったエアが抜けていく。
ラジエーターはサイドラジエーターとして比較的オーソドックスなレイアウトで検討を進めている。
ラジエーターコアの背後に置くファンを利用して底面から空気を吸い込む案も考えて提案したのだが、
皆さん特に関心を示されず反応薄かったので、そのままそれは保留に…。これは期待するほど効果は
無さそうだし、強くおすすめしたいというわけでもないので、まぁいい。
実はラジエーターの位置についてはちょっと変わった配置をリクエストされたのだが、その位置というのが
どうにもちょっと無理のある位置で…、どう検討してもまともな大きさのラジエーターはレイアウトでき
そうにない、事実上これは無いな…と思い、結果として比較的オーソドックスなこのレイアウトで検討を
進めているというのが現状。
ということで、ラジエーターを通過したエアは、その他のエンジンルームのあたたまったエアといっしょに
リヤコンビランプ下のエアアウトレットから排出される。
エアアウトレットはもっと大きくしたいような気もするが、ボディの天地が狭いし、ライセンスプレート
の取り付けベースを日本とヨーロッパの両方のサイズをまかなおうとするとそれなりにスペースが必要で
案外場所が無い。まぁ経験上それほど大きくなくてもエアは抜けていってくれるので大丈夫だとは思うが。
エキゾーストエンドはリクエストのひとつとして上方排気があるのだが、エンジン、ギヤボックス、
リヤサス、ラジエーター等のレイアウトと考え合わせると、スムーズなとりまわしが出来そうになく
(後ろに向かったエキゾーストパイプを出口の位置のためだけにユーターンさせるようなばかばかしい
ことになりかねない)、技術的なメリットもあまり無さそうなので、無理の無い比較的オーソドックス
な位置で検討を進めている。
上方排気をリクエストされた時に確認したのだが、上方排気を希望された理由は、見た目とか雰囲気が
好みだから、あぁ、あと音もいいかな…というようなわりとフワッとしたものだったので…。
リヤディフューザーは大型で前後長も十分とった大型で効きの良さそうなもの。効きが良いというのは
ダウンフォースの絶対値が大きく、かつ特性変化がマイルドということ。(まぁ、そんな都合の良い
ものはなかなか出来ないものなのだが…)こういうのはレースのレギュレーションなどに縛られずに
自由にやれるのがとてもいい。結果はともかく。
リヤウイングはいくつかの形式をいろいろ検討しているが、とりあえずは現在の技術トレンドである
吊り下げ式のステータイプを形にして、第一候補として進めている。ただ、個人的にどうもこの形は
あまり好きになれないのが正直なところ。CFDのシミュレーション画像などを見ると、その優位性は
理解できるにしてもだ。
基本的にレース車両ではないので可変タイプの機構も検討している。ウイングの角度だけが変わるもの、
ステーの根元から角度が変わるもの、格納式のものもいくつか考えている。
ただ、格納式は魅力的なのだが、ボディ形状にフィットさせることを考えると小型のものになるか、
分割にでもしないと成り立たないのがやや苦しい。ボディ形状、格納スペースなど、根本的に考え直す
必要がある。その価値はあると思うが。
いずれにしても、リヤウイングが無くてもスタイリングとして成立すること、そして魅力的に見える
ように心がけている。滑らかで整った形状のボディ、そこに着く(あるいは出てくる)効果的で形の
いいリヤウイング、そういうものが望ましい。
そしてそう考えた時、吊り下げ式はそれを成立させるのがやっぱり難しい…とあらためて思う。
リヤから見てもライセンスプレートはやっぱりユーロタイプが良いな…。
開発中のプロトタイプ Part 1 [プロトタイプ開発経過]
開発中のプロトタイプ、コロナ禍もあって現在中断状態となってしまっているのだが、
それはこの種の開発にしては珍しく時間が十分取れることになったということでもあるので、
弊社としてはこれさいわいと細部の詰めや色々な部分での熟成作業をデータ上で行っている。
集中して全力でやって、いったん間をおいて(一晩とか場合によっては数日とか)見ると
違和感があったりするものなので(自分の中ではこの感覚を朝一の客観性といっている)、
そういうところを繰り返し、念入りに修正して完成度を上げていく。
ヘッドライトはその形状にかなり気をつかうところのひとつ。
(気をつかうところは他にも山ほどあるが…)
ここまで作ってきたものを色々なアングル、ビューで見て本当に納得のいく気に入った形に
なっているか確認する。もちろんそこに合理性があることは大前提。
今回はフロントビュー(パースをつけない真正面、実際にはそういう見え方はしない)で
ヘッドライトの外形形状に、ほんのわずか、もう少し何とかならないかな…というところが
見つかったので修正作業にとりかかったのだが…。
フロントビューで、これくらいがいいかな…というアウトラインを修正したもの作って、
それをボディパネルに投影して、その投影したラインをプランビュー(俯瞰図)で見てみると…、
ああ、これはダメだ。
ヘッドライトのアウターレンズにはボディ全体を前後に貫くキャラクターライン2本が通って
いるのだがそのラインのところでアウターレンズの外形線が見映え悪く折れ曲がってしまう。
キャラクターラインは面と面の交差する相関線なのだから、この上を通る線が折れるのは当然
なのだが、その折れ方に統一感というかまとまりが無い。こういうのはダメだ。
フロントビューでもプランビューでも素直な気持ちの良いラインにするには、基本的な面形状を
修正する必要があるが、ここに関してはやや本末転倒気味なので、それはやらないほうが良さそう。
これがこうなるということは、多分以前もこういうことをやって、それもきっと何度も繰り返して
今の形に落ちついていたんだろうな、すっかり忘れてしまっていたわけだけれど。
時間があるのは良いことでもあるが、こういうバカバカしいこともあったりして、
やっぱり良いばっかりでもないか。(単に自分が冴えてないというだけのことだが…)
とは言っても、メカニカルレイアウトやパッケージレイアウトなど、根本的なところでまだ詰めて
いきたいところはたくさんあるので、それらに十分な時間をかけられるのは嬉しい。
時間に追われるようなことさえなければ、自分にとっては基本的に楽しくて満足感の得られる
作業なので、ほおっておいてくれたらずーっとやっていられる。
オメデタイというか幸せなヤツというか、自分でそんな風に思う。
他のところも色々見直す。何度か同じことやるかもしれないが…。