昨年12月に発表されたこのプロジェクト。ここで取り上げたい物のひとつとしてブックマークしていました。
ランボルギーニ ウラカンをベースにボディパネルをパンテーラ風に変えたもの、ということのようです。

Ares Design
Dove nascono la nuova Pantera e la 911 GT3 Targa
https://www.quattroruote.it/news/industria-finanza/2018/01/31/ares_design_dove_nascono_la_nuova_pantera_e_la_911_gt3_targa_.html

Ares Design
Rifaranno la Pantera sulla base della Huracan
https://www.quattroruote.it/news/nuovi-modelli/2017/12/13/ares_design_rifaranno_la_pantera_sulla_base_della_huracan.html

アレス・デザインが、デ・トマソ「パンテーラ」風のボディをランボルギーニ「ウラカン」に着せた
「プロジェクト・パンサー」を発表
https://jp.autoblog.com/2017/12/16/ares-project-panther-lamborghini-huracan-detomaso-pantera/



このアレス・デザインという会社はイタリアのモデナに本社を置く新興デザイン会社で、これまでに
ベントレーやロールス、メルセデスなどの外装/内装を変えたオリジナルカーの製作、販売の実績が
あります。

ARES Design
https://aresdesign.com/

Concepts - ARES Design
https://aresdesign.com/pages/concepts

アレス・デザインの社長はダニー・バハール氏。彼は少し前までロータスの社長だった方で、
その前はフェラーリとかレッドブルグループでマーケティング担当の重役をやっていて、その
実績を買われてのロータス社長就任だったようです。ロータスとしては安定した売り上げ確保と
会社存続のため、新型の開発と、出来れば同時にラインナップの拡充もしたかったのでしょう。
そこでバハール氏は適任、かもしれない…と賭けたのだと思います。2009年10月に社長に就任
したバハール氏は早速色々な改革を行い、翌2010年、かつて在籍したフェラーリからお気に入り
のデザイナーを引き抜き、デザインのトップにすえて、自身の好みを反映した複数のモデルの
開発を同時に行わせます。そしてパリショーにおいて、今後発売予定!というふれこみで何と
5台ものコンセプトカーを発表、ロータスファンだけでなく世界中から注目を集めました。
5台はそれぞれ新しいロータスとしての魅力もありましたし統一感もありました。ただその統一感
というのは、言い方を変えればどれも似たようなイメージという事でもあり、同じ時期に一人の
デザイナーが中心となってまとめると、良くも悪くもまぁこういうことになりがちですよね…
と感じられるようなものでした。そういう事は自分でもしばしばありますので、あたたかめな
目で見ていたというのもありますが、デザイン自体それまでのロータス各車よりも好みで注目
していました。

そしてそういうことより何より気になったのは、一気にここまでの拡大路線、しかも価格帯を
より高価格帯(フェラーリなどに近い)へ移行するという、野心的で大胆なプランです。
そんなことして大丈夫なのかロータスは…? 期待もしますがそれよりむしろ不安になるような
ものでした。これはいつか見たような…、私にはかつてのマツダの多チャンネル化とその悲しい
結末が思い起こされました。
で、ロータスの親会社もそう思ったのかどうか、バハール氏の改革のそのあまりの急進ぶり、
危険なほどの開発費の大盤振る舞いプランに待ったをかけるべく、バハール氏を突然解任します。
それに対して納得がいかないバハール氏は親会社を相手取り訴訟。親会社からも特別背任だか
何だかの理由で逆訴訟…と泥試合になりましたが後に和解…。そういうあれこれはともかく、
とりあえずロータスが大変な事になるのは免れたようで、ちょっと安心したのと、あの5台の
コンセプトカーがどれも日の目を見ないことになってしまったのは残念に思いました。
良さそうなものだけでも開発を続ければいいのに…。


















自社の社屋内と思われる発表会の様子。オリジナルパンテーラも後ろに置いてあります。





そういうロータスでの出来事があったことを知る者としては、今回のこのプロジェクトは比較的
安心して見ていられます。車を丸ごと1台開発するのと、ボディパネル(とそれに関連するもの)
だけの開発とでは、開発費が平気で一桁違ってきます。それに、今の会社ではもう雇われ社長では
なく自身で設立した会社です。出資者は他にいるかもしれませんが、ロータス時代のような残念な
こと(突然の解任、訴訟に逆訴訟…)はもう無いでしょう、多分。

車の構成としても、中身がランボルギーニ・ウラカンなら、デザインもエンジンもイタリア製
(ランボルギーニの今の親会社はアウディ、だからエンジンの開発はドイツということに…
というのはおいといて)ということで、かつてデトマソ・パンテーラが、エンジンがアメリカン
V8ということで不当に下に見られていたようなことにはならない、はず。オリジナルのシャシー
ではないというところはいかんともしがたいですが、オリジナルシャシーでこれを上回る出来の
ものを作るのは現実的にかなり難しいでしょうから、落しどころとしてはいいところではないかと。

それにしても、バハール氏がロータスの社長に就任したのが2009年10月。解任されたのが2012年。
その後すぐに立ち上げたアレスデザインがこんな立派な規模のものだという事が驚きです。
本当にビジネスセンスがあって、お金を集める能力に恵まれた方なのでしょう。やたら男前だし。
天が二物どころかいくつも与えちゃったんだろうなこういう人には。

立派な社屋。この写真にうつっているのはそのごく一部。


製作中の様子。ライトグレーのサフェーサー、部分的に薄く吹いた黒いスプレーなど、面出しの最中で
あることがうかがわれます。





それで、肝心なデザインについてですが、あくまで個人的にはですが…、
ちょっと魅力的だけど、オリジナルパンテーラの持つ魅力を超えていない、という印象です。
オリジナルパンテーラのいいところは、数あるスーパーカーの中でも屈指の上品さ、清潔感さえ
感じられるスッキリした造形、そういうところにあると思うのですが、今回のアレスデザインの
これは、ベースのウラカンの影響もあるのか、ちょっとスッキリ感に欠けて見えるのが残念です。
これだけ見れば十分魅力的だし、私がスッキリ感に欠けると思うディティールも、見ようによって
現代的なアレンジといえるのかもしれませんし、今のランボルギーニとか好きな人には歓迎される
のかもしれません。







私がアレスデザインのほうの残念に思うところは特にショルダーラインの通し方。Cピラー下への
つながり方です。ここをどうしてこんな風にグニャッとしてしまったのか…。オリジナルのほうの
あのシャキッとした処理、良かったのにな…、そんな風に思うわけです。もしかしてドアを丸ごと
ウラカンからキャリーオーバーする必要があってそうしたのかな、と思って両者の写真を比較して
みたところ、似てはいますがちょっと違っていました。アレス版のドアはオリジナルデザインで、
少なくとも技術的な制約でこうなったわけではないようです。
前後のフェンダーフレアも同様にあまりいい印象ではないところです。ボディが白だとわかり難い
ですが、ブルーメタリックのほうはその形が良くわかり、何だか無造作につけただけのようで、
うーむ、ここはちょっとあんまり…と思ってしまいます。これならむしろ全体的にふっくらと
させたほうが良かったんじゃないかな…、フェラーリ288GTOみたいに。







全体的なイメージとしてはオリジナルのパンテーラと、上記ロータスの5台のコンセプトカーの
中にあったもののかけ合わせのような感じがします。良くも悪くも。 ということは、これが
バハール氏の好みという事なのでしょう。
立派な規模の会社を自身で立ち上げて、好みのデザインのオリジナルカーを発表したということです。
中身は他社製とはいえ、ウラカンは現在のランボルギーニでシャシー性能最高と言われている程の
いい出来らしいですから悪くないでしょう。ただ、想像される価格(恐らくウラカンの倍以上)を
考えると、ちょっとデザインがおとなしすぎると思われないかな、という心配はあります。
派手にするために下品な造作を増やすような方向ではなく、出来ればプロポーション自体で
魅了するようなのになってくれたらいいのにな…。

いくつか好みではないところや心配な点もありますが、それでも、いろいろな意味でこういう車が
うまくいくことを心から祈ります。


せっかくなので、オリジナルパンテーラの写真も。やっぱりスッキリしてていいです。

特に黒いフロントバンパーが追加されたこれ(北米向けでしょうか)は、元のフロントエンドから
ちゃんと連続した造形になっていて、それがパンテーラの魅力を増していていいなと思います。
この手の追加大型バンパーは他はたいていひどいことになっていますから、これは異例です。












こんな短期間でどうやってこんな立派な社屋を建てられるんだろう…。