少し前のことですが1月15日は結婚記念日で、そのお祝いに映画とランチに行こうということで
見てきた映画、フォード対フェラーリ。妻はそこまで車好きというわけではないですが、記念日だし
付き合ってくれるというので見てきました。実は一人で見に行くかどうしようか迷っていました。
友人らしい友人がほぼいないと、こういう時ちょっと困ります。一人で行けばいいだけなんですけど…。

映画「フォード対フェラーリ」
http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/

見てからちょっと間が空いてしまったのは、この日の夕方、猫のレイが急遽入院することになって、
心配だったし落ち込んだからなのですが、幸いなことに想像したよりも悪くない状態ということが
わかり、少し安心できたので、この映画について書いてみることにしました。





見た印象として、タイトルの下に()で“シェルビーチーム対フォードの中のくそ野郎”と加えたほうが
良さそうだなと思いました。それくらい、フォード社の当時の副社長が嫌なやつでした。ただ後で
調べてみると、この人物はそこまで嫌なやつではなくて、むしろ彼を知る人は誰も彼を悪く言わない、
尊敬されるような人物だったらしいです。

また、対フェラーリとうたっているものの、フェラーリについての描写は結構あっさりしたもので、
ちょっと拍子抜けでした。ただ、主役の片方の車として、世界中のオークションで最も高値をつける
フェラーリ330P3/P4が走るシーン、それもフォードGTや当時のライバル達と一緒にレーシング
スピードで走るという特別中の特別なシーンが沢山見れて、それはもうこの映画を製作してくれた
方々に、ただただ感謝しかありません。こんなシーン見れて幸せ、と素直に思いました。





フェラーリ330P3/P4もフォードGTも、自分としては最も好きな年代よりもやや古くて、正直な
ところ“この頃のが一番好き”というほどではないのですが、それでも、これらの車を大好きという
人達の気持ちはよくわかります。特にP3がピットレーンに入ってくるシーンなどでは、写真などでは
あまり見ることがないやや俯瞰気味のフロントビューからサイドビュー、そしてリヤクォータービュー
まで、個人的に大好きなアングルでとても良かったです。低くて薄っぺらいのに抑揚があって、
滑らかかつシャープ…、そういった全体的な形が良くわかっていいです。 映画の中のセリフでも、
ルマンの本番でフェラーリの実車を目の前にして、マイルズ達が「美人コンテストなら負けたな」
というシーンがあって、あぁ確かに…、当時実際にこれ見たらそう思っただろうなと思いました。





そしてキャロル・シェルビーの会社、シェルビーアメリカンの会社の中の様子が何度も映し出される
のですがこれもまた、ある種夢のように見えて…、うわぁ、こんなのがある、それもこんなに沢山…。
そんな風に思えてそれもとても良かったです。





ただ全般的に主要人物達の感情表現はもう少し抑えてくれても良かったんじゃないかなと思いました。
人間性にやや難ありだが開発能力が極めて高く、運転すれば抜群にうまくて速いドライバー、その彼を
クライアントの意向に背いたり脅すようなことまでして強引に乗せて、ついには勝つ…、そういう面も
確かにあったのでしょうしそれなりにドラマチックではありますが、もっとこう…レーシングカーの
基本コンセプトでフェラーリとは違うアプローチ、自分達のストロングポイントを鍛えに鍛えていって、
最初はかなわなかったけど、それでも2回、3回と挑戦を続けていって、ついにはフェラーリに脅威を
与えることにまでなり、それゆえフェラーリは機械的な無理をすることになり、肝心の大本番の終盤に
自滅、かくしてフォードは1位、2位、3位独占の完全優勝を成し遂げる…。という側面をもっと強調と
いうか、うまいこと説明してほしかったなと思いました。





ちなみにその両者のスペックは下記のとおりです。(1966年当時)

  フェラーリ 330 P3 : 3,967cc 60度V型12気筒DOHC 最高出力:420ps/8,200回転
             圧縮比:10.5 ツインプラグ 燃料噴射
              車重:851kg
         
  フォード GT 40 Mk2 : 6,997cc 90度V型8気筒OHV 最高出力:475ps/6,200~6,400回転
              圧縮比:10.5 シングルプラグ 4バレルシングルキャブ
              車重:1,088kg




比較すると、フェラーリは排気量はフォードよりもずっと少ないが高度で先進的なメカニズムで
排気量の割りに高出力。ただしメカニカルトラブルの可能性はフォードよりも高め。車重軽い。
片やフォードはやや古めかしいメカニズムながら圧倒的な大排気量で最高出力でフェラーリを上回る。
その発生回転数は低目(といっても当時のこの排気量のV型8気筒としては驚異的高回転)で信頼性高く
(これも見方によるが…)耐久レース用エンジンとして優位、車重は重め。
というようなことが大雑把に言えるかと思います。





フォードが絶対王者フェラーリに勝てた理由を、技術解説になるようなシーンを色々見せることに
よって盛り上げてほしかったです。
たとえば…、ピョンチャン五輪直前に放映されたNHKのドキュメンタリーで、スピードスケートの
女子パーシュート日本チームを追ったものがあったのですが、あれすごく良かったです。
スケートに詳しくない人が見ても技術的な内容が良くわかるものになっていて、なぜ日本チームが
速くなって、どれほどオリンピックで期待できるのか、そういうことがよくわかって本番のレースが
ものすごく楽しみになりました。それまで長きに渡って絶対王者として君臨していたオランダチーム
(選手一人ずつの能力では日本選手達を上回る)の選手にインタビューして、「日本に勝てると
思いますか?」と聞いたこたえが「あなた何を言ってるの?当たり前じゃない。」と危機感もなく
言っていて、それがとても印象的でした。
ほぉぉ…まぁ言ってればいいさ。今に見てろよ…。テレビを見ててそう思ったわけですw
迎えた本番、オリンピック決勝、相手はそれこそ当たり前のようにオランダ。そのオランダに対して
日本は中間で若干の遅れをとるも、結果としてオリンピックレコードを大きく更新して大差といって
いい差をつけて勝利、見事に金メダルを獲得してくれました。良かったなあれは…。今思い返しても
そう思います。
で、そういう感じのシーンがうまく挟み込まれていたらどんなに良かったか、もっとうんと興奮した
だろうなと思ったわけです。 見たかったな、そういうの…。





マイルズ役の俳優が当時の本人ととてもよく似ていたことも良かったです。本当に驚くほど似ています。
以前見た映画で、やはり本人と俳優が驚くほど似ていたボヘミアンラプソディのブライアン・メイの
ことを思い出しました。





お父さんのことが大好きなマイルズの息子もかわいくて…、マイルズがレースから足を洗う決心を
してトロフィーとかをゴミ捨て場に置いてきたのに、それをこっそり拾ってきて自分のベッドの下に
隠したり、テスト走行するお父さんを憧れの目で見ていたり、大体見た目からしてロシアの女子
フィギュアスケート選手、メドベデワ選手に似ててかわいいし、演技もうまくて…、最後切なかった
です。





あと、マイルズの奥さん役の女優が、こんな奥さんほしいなと思うほど魅力的でとても良かったです。
背の高い女優さんだなと思ったら、若い頃はパリコレのモデル、それも花形メジャーブランドのモデルを
つとめるほどの一流モデルさんでした。パリコレモデルからハリウッド女優へ、すばらしい転身。





全編を通して、クライアントとチームのメンバーの間で板ばさみになりながら目標達成のためにがんばる
キャロル・シェルビー氏の苦悩、葛藤は、分野もスケールも違いますが、かつて自分が経験した嫌なほう
の苦労を思い出してしまって…、腹が痛くなりそうでした。
腹はそうでしたが、映画としては十分楽しめました。おもしろかったです。









車好きなら見ておいていい映画…、そう思いました。