前回取り上げたフェラーリ 512S スペチアーレ に続いて、ピニンファリーナが1970年3月ジュネーブ
ショーで発表したコンセプトカー、フェラーリ 512S モデューロ。
デザインの方向としてはとにかく未来。とにかく明るい安村 みたいですが、もう本当に未来、
迷い無く明るい未来を見ています。そういうことですからタイヤは隠す方向(本当は無くしたい
くらいのいきおい)、まさに未来都市の透明なチューブの中を飛んでいるエアカーのようなイメージ
です。

Ferrari 512 S Modulo Concept (1970)
http://oldconceptcars.com/1930-2004/ferrari-512-s-modulo-concept-1970/



前回取り上げた512S スペチアーレ の写真に登場する女性モデルについては無いほうがいいと
書きましたが、このモデルさんはいいですね。こういう上品な使い方は好みです。
また、ピニンファリーナらしい気もします。









発表されたのは512S スペチアーレよりもこちらのほうが後なのですが、実はこちらのほうが
先に完成していました。それが順番を変えて発表したのには訳があります。

ピニンファリーナ社内での評価は2台ともすばらしいものでした。
フェラーリ製の同じシャシーを使って社内で競作させたら、すっごくいいのが2台出来てしまった
わけです。さすがピニンファリーナ、当時同社に在籍していたのデザイナー達の力量がいかに
すばらしいものだったか、それがうかがえる(いくつかある)エピソードのひとつでもあります。

さて、この2台のどちらかをウイナーにして、他方をお蔵入りにしてしまうのはあまりにもったいない。

どうする?

両方発表したい。
だが、これを出来た順番に発表したら、モデューロを見た後では512S スペチアーレが古く見えて
しまう(!)かもしれない…。それは避けたい。こんなにステキなデザインなのだから。

じゃ、どうする?

うーむ…、順番を変えよう。

というような経緯で、後から完成したにもかかわらず、まず512S スペチアーレが1969年11月の
トリノショーで発表され、そのすぐ後、翌年1970年3月のジュネーブショーでモデューロが発表
されることとなりました。
モデューロはあまりに先進的、未来感あり過ぎだったのです。






発表されたモデューロの評判は…
まさにピニンファリーナが危惧したとおりというか、きっとそれ以上に、世界的に高い評価を
得ました。いわく、史上最も未来的な車。こんな表現は時代とともに現れる新しい車に受け継がれて
いくのではないかと思うのですが、これに関してはそうはならず、この言い方がその後何年たっても
特に訂正もされていないようです。
いかにこの車のデザインが突出していたかということです。車に大して興味が無い人も、素直に
そう受け止めたのではないでしょうか。

この車がそんな高評価を世界的に得たものですから、当初ピニンファリーナが恐れたこと、
十分傑作といえる512スペチアーレが不本意な評価を受けてしまうこと… は直接的には避けられた
のかもしれませんが、人々の記憶にはモデューロだけが強く残り、他はかすんでしまった。
そしてその中の1台になってしまった、というのは残念ながら事実のようです。

モデューロは当時タイミング良く開催された日本の大阪万博にも展示され、そこでも人気を博しました。







かなりあっさりしたインテリア。こういう傾向はこの頃のコンセプトカーに多いのですが、
まだ皆さんインテリアにそれ程力を入れていなかったようで、ガンディーニが何かのインタビューで、
“当時のインテリアはエクステリアが出来てからサクサクッと作ったもので…”などと言っていて、
まぁそういうことなんでしょう。大体、まだこの頃はインテリアデザイナーというくくりも
無かったんじゃないかと思いますし。






ただ、個人的にはこのモデューロのデザインにそれほど共感するものではなく、好みというわけでは
ありません。表現が適切かどうかはさておき、良く出来た学生の作品のような、車以外のインダストリアル
デザイナーの作品のような、未来都市を舞台にした映画に出てくる架空の車…そんな感じがして、
いまひとつ魅力的に見えないです。
良くも悪くも車らしく見えないところがそう思わせるのかもしれません。




ばん金のための木型と一緒に。


この木型自体がステキなオブジェのよう。


この写真自体はやらせでしょうけど、ボディはFRPではなく金属の薄板、恐らくアルミを手叩きでしょうか。


デザイナー、パオロ・マルティンの描いたアイディアスケッチ。これが描かれたのは1967年のようです。


当時のスケッチと、後年イラストレーターとかフォトショップで描かれたと思しきスケッチ。






同じ時期に発表されたベルトーネのストラトス・ゼロと並んで展示されているモデューロ。こんな2台を同時に
見られるなんて、何ともうらやましい状況。
そういうテーマでカラボとか、ブーメランとか集めて展示してくれたら…、いやいっそのこと、
60年代末から70年代前半頃の傑作コンセプトカーを一堂に集めて見せてくれるようなイベント、
やってくれないかな。
“1970年前後の傑作コンセプトカー展”とか銘うって、美術品の絵画や彫刻などで行われているように
世界ツアーをやっても…というのはさすがに無理があるか。でもそんなのあったら、普通のモーター
ショーよりも間違いなく行きたいです。

という妄想はさておき…、上の写真を見て感じるのは、とがり具合ではモデューロを上回るほどで
ありながら、タイヤが露出していることもあって、幾分車らしく見え、しかも独創性に富んだ
ストラトス・ゼロのデザインの何と魅力的なことかということ。次はこれを取り上げてみようと思います。









好みかどうかはさておき、非常にレベルが高いデザイン…。