Stable Diffusionという画像生成AIがあります。これは「入力されたテキスト」をもとに
画像を生成する「訓練済のAIモデル(Diffusion Model)」を搭載した画像生成AIで、
ウィキペディアによると、

Stable Diffusionは、2022年に公開されたディープラーニングのtext-to-imageモデルである。
主にテキスト入力に基づく画像生成に使用されるが、他にもインペインティング、アウト
ペインティング、テキストプロンプトによって誘導される画像に基づく画像生成にも使用される。

とのことです。
現状どのような使い方をされているのか、軽く調べてみたのですが、アイディアスケッチを
短時間で沢山出させるのにはとても良いようです。うまく使えれば同じようなことを人間が
やるよりもはるかに効率的にやれそうです。
そして、そこまではとてもいいのですが、まだそこまでかな…という感じです。
それ以降の工程、実際の寸法を入れ込んで、様々な要件を満たした3次元データの作成などは
従来通り人間が従来の3DCADを使ってやらざるを得ない、ということです。
画像生成AIですから、それ以上のものではないわけです。



ただ、テキストを入力して形(2次元画像)を調整するって、どう考えてもかったるいところ
が出てきそうで…、そうすると結局自分でやった(描いた)ほうが手っ取り早いんじゃないか、
少なくともドンピシャで自分好みにするにはそのほうが良さそうに思えます。

有効な使い方としては、アイディア出しをする時に、これまでだったら自分でため込んでる
色んな車の画像を見たり、Webで画像検索したり、これまでに見て惹かれたことのあるものを
また見返したり、過去の自分が手がけたものまで見返したり、あるいはピンタレストみたいな
ところを見たりしてたのを、これを使ってAIの力で即興でたくさん作って見せてもらう、
そういう超強力なツールとして使うのが良さそうです。
うまく使えれば初期のスケッチを描く手間が一気に省けて、これまでだったら考えられない
ような短時間でものすごいバリエーションが得られるので、その中から良さそうなものを選び、
そこからは自分で詰めていけばいいし、いくつかはカウンターアイディアとして少しだけ方向
の異なる展開をさせてみるのもいいかもしれません。



こういうものが出てくると、アイディアはあるけど絵が得意じゃなかった人もデザイナーの
仕事ができるようになるかもしれない、と思われるかもしれませんが…、そういう面は確かに
あるかもしれないのですが、多分そう簡単ではありません。アイディアは絵でもデータでも
試作品でも、とにかく何らかの手段で顕在化して評価できるようにしないことにはどうにも
なりません。経験や知見があったほうがいいのは勿論ですし、何より明確なビジョンが無いと
AIに指示を出すこともままならないでしょう。
そう考えると、このAIを活用した新たなデザイン手法は、デジタルネイティブと言われる
若い才能のある方が取り組むのが自然なように思われがちですが、経験も知見も実績も豊富な
ベテランデザイナーにこそ取り組んでほしいとも思います。
自分がそうだというつもりは無いのですが、自分にあてはめて考えると、頭にあるちょっと
モヤモヤしたままのアイディアをとりあえず絵にしてみる、その仮定をAIを介して行うことに
よってアイディアがより明確になって、本当にそれが自分の望むものなのかどうかを、ごく
早期に判断出来るようになる…、いいものであればそれを素早くどんどん洗練させられる…、
そういう可能性はとても感じます。



そういうことから考えるに、例えばあるデザインチームにおいて Stable Diffusion 等を導入
するのなら、いわゆるエースデザイナーに真っ先に取り組んでほしいということです。

実はこういうことは3DCADが導入され始めた時にも同じようなことを思ったのですが…、
当時のエースデザイナー、エースモデラーにこそ真っ先に3DCADに取り組んでほしい、
そうすべき理由がある。…そう思ったのですが、現実にはなかなかそうはならず、そういう
方々はむしろ避けたがる傾向が強く、当時の若手や、実績はともかく新し物好き(ちょっと
失礼な言い方)がそれを担当することが多かったように思います。
結果として、デジタルでデザインしたものは今ひとつ…などと言われることもしばしばでした。
それはデジタルが悪いのではなくて…って、これを書きだすと結構大変なことになるので、
あまり言及しないでおきますが、もうひとつの弊害として、オペレーターとしてCAD操作を
ある程度出来るようになった方が設計が出来る、デザインが出来ると錯覚、自称してしまう
ということでした。実際には立体として成り立っていないとか、組み立てられない、ボルト
穴にボルトが通せない、溶接出来ない…なんていうのはザラです。
一から設計したことのある方ならわかると思いますが、図面なんて設計工程全体から見たら
かなり後のほうの20~30%、場合によっては10%以下とか、そんな割合のものだという
ことです。まぁこの割合は設計する対象や設計者によって考え方、とらえ方は色々でしょうが、
言いたいことは、図面が描ければ設計が出来ることになる、なんてことないということです。



そうなのですが…、Stable Diffusion等の画像生成AIを使えればデザイナーになれる、
というのはそう否定的ではありません。というのは、絵を描くだけのデザイナーの中には
それが立体になった時のことなど知ったこっちゃないという割り切った考えの方も実際に
いらっしゃいますし、それがえもいわれぬ魅力的な絵だったりすることもありますので、
そういうものを欲する方々もいらして、いい意味で需要があります。明らかに自分とは
スタンスが違いますが、それはそれでいいんだと思います。






関連するようなことを以前書いています。以下は過去の記事
「本当のCAD:Computer Aided Design  2021年12月6日」
に加筆、修正したものです。



何だか大層なタイトルですが、書いてる中身はそれほど大したことないので心配しないでくださいw

私がCADというものを触りだしたのは多分1990年代のなかば頃で、ソフトはAutocad LTという
2次元のもので、それまでドラフターで手描きしていたものをPC上に移行した感じのものでした。
そして1997年頃から3DCADを並行して操作するようになり、徐々に3DCADだけになっていきました。

CAD:Computer Aided Design、
直訳するとコンピューターに支援された設計ということになりますが、コンピューターが
自動的に設計してくれるということではないわけですね。あくまで“支援”であって、
主体的にやるのは人間、コンピューターはそのお手伝いをしてくれるということです。
だから操作する人間が間違っていると普通に間違いが起こりますし、いかに優れたCADでも、
それを使う人に明確なビジョンがないと(必ずしも明確でなくてもいいですが)、とにかく
“こうするんだ”というビジョン(と適切な操作)がないと線1本引けないということです。

さぁ、これから車のデザインをしようと思うのですが、外形寸法を決めて、ホイールベース、
前後トレッド、乗車定員、エンジン形式とサイズ、駆動方式、その他想定される全ての条件を
入力して、Enter押したらあとはコンピューターが、ターゲット別、コスト別に何パターンか
ステキなデザインを出力してくれる…、そんな夢のようなことにはまだまだなっていないのが
現状です。



現状はそうなのですが、最近のAI活用の成果を見ていると、上に書いたような“夢のシステム”
が現実となる日が近づいてきたかも…と思わされるものもあります。3Dプリンターが脚光を
浴びるようになってしばらくして、それで出力することを前提としたサスペンションアーム
(もちろん金属製)などが参考試作品として作られて、そういったものなどを見ると、応力を
効率的に分散させるためなのか、これまで見たことも無いような、他のどんな製法でも不可能
な複雑で繊細な造形に非常に惹かれました。何か生き物の骨格と神経系を組み合わせたものを
見るような感じで。
ただ、3Dプリンターは出力(成形)に時間がかかり、価格も非常に高価になりがちですので、
とても量産には向かないので、まだまだ用途は限定的です。
こう言うと、中国とかならかなり安いですよ、というような声が聞こえてきそうですが…、
私自身かつて中国の業者に依頼してかなり安く(しかもかなり速く)作ってもらったことが
ありますので実体験としてわかるのですが、人件費が安く全ての製造コストが安いところで
やれば相応に安くなるのは事実ですが、それはまた別の話です。



そんな感じで、ものによっては非常に魅力的に思えた新しい製法ではあるのですが、これが
スタイリングデザインとなると…、考慮しなければいけないことが山ほどありますし、しかも
いちいち定量的ではないときていますから始末が悪いw そのアルゴリズムをどうやって取り
まとめるのか、ちょっと想像するだけでも気が遠くなるような…そういう作業ではないかと
思うわけです。
美しいとか、カッコいいとか、その定義をどうするか?色々なテイスト、方向に向けて
それぞれのベストをさぐるにも、そのテイストといったって…、スポーティー、レーシー、
スパルタン、シンプル、ゴージャス、エレガント、クラシック、モダン、コンテンポラリー、
フューチャーリスティック、アバンギャルド、ファッショナブル、スタイリッシュ、ポップ、
ヨーロピアン、イタリアン、ブリティッシュ、アメリカン、ジャーマン、和風(?)などなど…、
きりがないほど考えられるし、2つ以上のミックスとかも普通に色々考えられます。
そしてそれぞれのテイストをリリース時期を考慮して少しだけ未来的に表現しようと思っても、
未来感というものも2~5年程度の近未来から、10年以上先のことまでと色々考えられます。
そう思うと、総合的な判断はまだしばらくは人間の感覚、知見に頼らざるを得ない、完全に
AIに任せられるようになるのはまだまだ先のことかな…と思ったりもします。



そして、仮にこの夢のようなスタイリングデザイン開発システムが出来た場合、今私がやって
いるような仕事は無くなってしまうかもしれない…、その可能性はあるにはあります。
あるのですが、それもまだ先の話で、最終的な評価はやはり人間がしなければいけないと思い
ますので、全くやることが無くなるなんてことは無いんだろうな、とも思います。
デザインの仕事では、形を考えること自体が非常に楽しくて興奮する、と自分では思っている
のですが、もしもそれが無くなってしまったら相当つまらないな…と思いつつ、でも、実際の
ところその作業はかなりめんどうくさくて…w、そう言ってしまってはいけないと思うんですが、
その面倒な作業をある種の小人さんのようにコンピューターが引き受けてくれるなら、それは
それでいいかもなぁ…、いやきっといい。そう思います。



必要な技術情報を入力して、ターゲットの年齢層は40~50代、価格は500~700万円程度、
デザインテイストはイタリアン・モダン・スポーティー、市場は北米、5年後~10年後位の
ライフスパンを想定…、ということでコスト別に5種類くらい出力させてみる。
明日の朝までだぞ、ってw
で、翌朝出てきたアウトプットの中から良さそうなものを選んで、フロントはA案70%+B案30%、
リヤはB案60%+C案40%でもう一度出力させる。それを何回か繰り返して熟成…なんて出来たら
いいんだろうなと思うんです。
これって、デザインチームの取りまとめ役が、何人ものデザイナーやモデラーを使ってやっている
ことを集約していることに他ならないんですけど。



まだ実現には時間がかかりそうなこの夢のシステムですが、こういうことが出来るようになって
こそ、本当のCADというか、最初にCADというものに対していだいたイメージではないかなと
自分では思っています。そうなった時にはCADという言いかたではなくて、何か別の呼び方に
なりそうな気がしますが。


以上、過去の記事
「本当のCAD:Computer Aided Design  2021年12月6日」
に加筆、修正。














ウクライナがロシアを追い出して勝利して、全ての領土をとり戻し、
ロシアにきっちり賠償させて、平和を取り戻せるまで応援したいです。

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Ми підтримуємо Україну всіма силами!
Ми всі на вашому боці.












夢のシステム、実現までもう少し、かな…。