「センスは磨けるものです。いろんな良いものを見て、触れて、経験を重ねることによってセンスは
磨かれていきます。(後略)」
高専時代の選択科目でとっていた美術の講義で先生が言ったこの言葉は実感としてそうだなと思いますし
あたたかさも感じられる良い言葉だと思います。この言葉に慰められ、励まされることも多いです。
心のよりどころのひとつと言ってもいいかもしれません。色々な経験を積んで段々と洗練されたものが
アウトプットできるようになる人は多いと思います。みんな頑張ってますね。自分などでもいくらかは
そうであったように感じています。

そうなのですが…、この言葉が触れていない厳しい現実もあるという事もまた実感としてあります。
今回はそういうことを感じることについて書いてみます。

世の中には努力とか訓練とかでは超えられないものがあることも確かです。
私の仕事でいえば、見た瞬間に、ああ、これは負けた。こんなのにはかないっこない…。
そう打ちのめされるような途方もなく素晴らしいデザインを目にすることがあります。
幸か不幸かそれほど多くはないのですが(まぁ、あまり多いようなら転職するとか、会社の事業内容
を変えたほうがいいってことです)、平均すれば何年かに1回くらいの割合であります。
そういうものを見てあせったり自信喪失したり、結構なダメージを受けることになります。

で、そうやってダメージうけて落ち込んだりするのですが…、
その一方で、そういうもの、そういうハイレベルなものを見たいという欲求もあります。
その気持ちはいつもあります。

これまでに好きになった車の中にそういったもの、つまり「これはかなわない」と思ったものが
いくつかあります。今回はその中ですぐに思いつくものをあげていってみようと思います。
順不同で大体古いほうから。


Lamborghini Marzal(1967年 ベルトーネ マルチェロ・ガンディーニ作)
真っ先に浮かぶもののひとつ。モダンで美しくてかっこいい。文句なし、素晴らしくて泣けてくる。






Frrari P5(1968年 ピニンファリーナ レオナルド・フィオラバンティ作) 
真っ先に浮かぶもうひとつがこれ。多分一番好きなものです。とてもかないません。






Fiat Abarth 2000 Scorpione(1969年 ピニンファリーナ フィリッポ・サピーノ作)
これも、とてもこんなのマネ出来ません!素直にそう思います。特徴的で冴えたデザイン。






Alfaromeo Carabo(1968年 ベルトーネ マルチェロ・ガンディーニ作)
ウェッジシェイプ、クサビ形と言ったらこれ以上のものは無いです。同じデザイナー作で
最も有名なカウンタックが甘く見えます。(←言い過ぎ。あれも決して甘くなどないです)






Lancia Stratos Zero(1970年 ベルトーネ マルチェロ・ガンディーニ作)
いろいろ破綻しているところもありますが、それを補って余りある魅力的なデザインだと思います。




Maserati Khamisin(1973年 ベルトーネ マルチェロ・ガンディーニ作)
ボディサイドを前端から後端まで走るプレスラインが後ろで跳ね上がって終わるというあり得ない
ことになっているにもかかわらず、端正で美しい(そう見える)シルエット。上品さとか清潔感の
ようなものを感じます。シンプルな構成のようでいて色々マネできないです。






ここで一気に年代が飛びます。


Maserati Bierdcage 75(2005年 ピニンファリーナ ジェイソン・カストリオータ作)
これはリヤクォータービューがとにかく魅力的。他はまぁ、ちょっと…。
取りまとめ、ディレクションは日本人デザイナー、奥山清之さんが行いました。
 





ALFA Romeo 2uettottanta(2010年 ピニンファリーナ ローウィ・ヴェルメルシュ作)
ジュネーブショーで発表。顔つきが超魅力的。ちゃんとアルファらしく見えるしピニンファリーナ
らしくも見えて素晴らしい。シンプルさと大胆さ、これはまねできない…、久しぶりの “さすが
ピニンファリーナ” という感じがしました。オープンが好きではない私もこれは好きです。






LEXUS LFA(2010年 トヨタ社内デザイン 原案:レオナルド・フィオラヴァンティ作)
レオナルド・フィオラヴァンティ氏に依頼した原案をトヨタ社内で長い時間をかけて熟成したもの。
なんと言ってもリヤクォータービューがいい。原案あってのものだが、ここに関してはそれを大きく
超え、他に似るものも無く非常に魅力的なデザイン。ボディサイド下側のエアインテークの処理は
デリケートで素晴らしい。他はあんまり…、顔つき最低。顔つきで全てをぶち壊す勢い(←失礼千万)






SSC Tuatara(2010年 ジェイソン・カストリオータ作)
他のビューはともかく、フロントクォータービューがすごく魅力的。ヘッドライトを縦基調で使って
こんなにかっこよく魅力的なのは他に知りません。サイドとリヤビューはちょっとアレですけど。
元ピニンファリーナのジェイソン・カストリオータ氏がベルトーネ、SAABと転籍する間にデザイン
されたのかなと思います。




BMW i8(2013年 BMW社内デザイン)
2009年発表の Vision Efficient Dynamics が原案。デザインは同社の若手デザイナーが担当、
それを日本人デザイナー、永島譲二氏が最終的に仕上げたものです。デザインスタディとして発表
されたものだったのですが、あまりに大きな反響があり急遽市販車とすることが決定され、4年後の
2013年、正式に i8 として市販開始されました。そして2020年には生産を終了しています。
顔つき、フロントクォータービューがとても良いです。他はちょっと…、特にリヤはまとめきれ
なかったように見えて残念です。それでも他にない魅力があり、インテリアもとてもいいです。
ただ、スタイリングデザインとは関係無いのですが…、搭載されている3気筒エンジンでは排気音が
さみしいと思ったのか、迫力のある排気音を人工的に作って出しているという、ちょっと恥ずかしく
なるような変なこともやっていて、そういうのはちょっと、やめとけばいいのに…と思います。
デザイン自体もここで取り上げた他のものに比べると、取り上げるかどうか微妙なところではあった
のですが…、良いところは良いと思うので取り上げました。




好きなものという事であればもっとたくさんあるのですが、ここでは自分は思いつかなそうなもの
という観点で選んでいます。センスとか磨けると思われるものをいくら磨いても、こういうものは
自分の中からは出てこない…、そんな気がするものたちです。


センスは磨けるもの、と言われたこと シリーズは今回で終わりです。
長々読んでいただいた方、ありがとうございました。






かなわない、と思うのは悔しいけれど、そういうのもっと見たい…。