好きなもの以外手掛けない。
そんな傲慢な…と思われるかもしれませんが、そういう偉そうなことを言いたいわけではなくて、
好きなもの以外手掛けないほうがいい、好きではないものはその良し悪しの判断が出来ないから。
という意味です。
私にとって、「デザインとは明確な意図をもって形を決めること(形のところにはカラー、レイアウト、
構造など様々なものがあてはまる)」なのですが、それに沿っていないことはやってはいけないだろう、
そう思っているということです。



そうは言っても実際問題、せっかくのご依頼をお断りすることは中々難しく、何とかかんとか対応
するわけですが、自分でやっててこれはどうも今ひとつ、こんなんでいいのかな…なんて思うことも
あります。
私が苦手な車というのは、SUV、ワンボックスなどで、基本的に車高の高い車です。
そして困ったことにここ年々かSUVのトレンドが続いていて、広告用ビジュアルでSUVをご希望される
ことも多く、私としてはやや苦しい状態でした。
それが最近はBEVへの注目度が上がって、クライアント企業が望む傾向も変わってきて(皆さんテスラ
っぽいものを意識されていることが多いです)、私としてはちょっと安心しているところです。

SUVの中でも私が苦手なのはいわゆるクロスカントリータイプ、例えばランクルとか、パジェロ、
ゲレンデバーゲン、レンジローバー、ジープ…そういうものです。未舗装の悪路や冬の雪国では
とても頼りになっていいのですが、それをもってカッコいいとか憧れるとか、そういう気持ちには
ならないですし、実際に運転しても普通の舗装路を走るには重くて重心が高くて、高速のインター
などのカーブがもう嫌で…運転を楽しむという気にはなれません。



ただ、ハリアーとかは私にも良さがわかるのでいいです。あれは初代から一貫して先進的で高品質感
があって魅力的だと思います。各世代とも良いです。初代と現行型はかなり好みです。最初にあの企画
をして、見事にスタイリングでそれを表現して見せたのが素晴らしいです。とても能力の高いデザイナー
達なんだろうなと思います。もっと言えば、あのデザインの方向性は日本車が目指す方向のひとつでは
ないかとさえ思っています。

あと他にはBMW X5の初代、アウディ Q7の初代、そして一時期のグランドチェロキーとかも好きですし、
レンジローバー・イヴォークなどもいいなと思います。これらに共通するのはハードなクロスカントリー
タイプではなくて、モダンでスタイリッシュ、セダンに対するクーペのような特別感をクロスカントリー
タイプに対して持っているように思えて、それがいいんだと思います。


で、ここに上げた画像はちょうど10ほど年前、2011年頃に自動車部品メーカーさんからの依頼で、
製品をアピールするための架空のSUV車両を作ってCGで色んな広告媒体に使いたいので、その案を
いくつかまずはスケッチで提案してほしいという事で描いたものです。この手の依頼に対して考慮
するのはリアリティを持ちながら、現行車よりも少しだけ近未来寄りにすることなので、そういう
つもりで描きました。



type A、type B はあんまりSUVっぽく見えないので却下。正直、私としてもSUVの近未来というのが
どうもあまり明確なイメージにならず、この2案はその良くないところが出てしまっていて、とても
気に入ったものにはなっていなかったので、「ですよね…。」という感じです。
それに対して type C は自分としてはなかなかよくまとめられた気がして、これが本命というつもり
でした。それで、type C に決めていただけるのかなと思ったのですが…、物事はそう簡単には進まず、
「type C はかなりいい線いってるとは思うんですが、何というか、もうちょっとこう…、ええと…。」
みたいな感じでモヤモヤされてて…、詳しく聞いてまとめると、この時の担当者の方は何のことはない、
レンジローバーがお好きというか、それこそがSUVの典型!というイメージをお持ちだったようで、
それっぽくしてほしいらしいという事がわかり、そのご希望に沿って描いたのが type A-2 です。



この type A-2 は当時の目で見ても、特にキャビンの形状や全体的なシルエット、ディティールまで、
レンジローバーに寄せたせいもあって、それほど先進性は感じられなくて、ほんとにこれでいいのかな
と思わないでもなかったのですが、お客様は喜んでくださいましたし、これを実車にしてこの先何年も
売る…なんて話ではないので(あくまで広告用ビジュアルですから)、これはこれでいいんでしょう。

私としても type C を描いて、その後で type A-2 を描いてみて、自分としてはやっぱり type C の
ほうが良く見えるし、こういうのならSUVもちょっといいかなと思え(いつものようにおめでたいw)、
SUVに対する苦手意識が少し薄れたような気がしました。







そうはいっても、やっぱりSUVは得意ではないです…。